デジタルコンテンツ創造における沖縄の課題と展望


【対談記事】岸原孝昌様(一般社団法人モバイル・コンテンツ・フォーラム専務理事)
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      佐藤慎吾(一般社団法人沖縄デジタルコンテンツ産業振興協議会代表理事)


この度、日本を代表するデジタルコンテンツ業界団体 一般社団法人モバイル・コンテンツ・フォーラム(MCF)専務理事である岸原孝昌様と弊社団代表理事 佐藤慎吾の対談を行いました。デジタルコンテンツ創造における沖縄の課題と展望について貴重なお話を頂く事が出来ましたので、沖縄で事業基盤を構築中の企業様や進出を検討されている企業様は是非ご一読頂きお役立てください。

左: MCF専務理事 岸原孝昌様 右:OADC代表理事 佐藤慎吾

左: MCF専務理事 岸原孝昌様 右:OADC代表理事 佐藤慎吾

沖縄は世界に通用するコンテンツの創造地になりえる


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事務局:
OADCのこれまでの取り組みについては、どのような印象をお持ちでしょうか?

岸原:
OADCで掲げている沖縄でコンテンツ開発をしていくというコンセプトですが、沖縄という文化的な素養のある場所で行うということは今後グローバル展開していく時にはすごく重要だと思います。
東京にいると、ハイコンテクストというか、非常に細かい事がよく分かる人たちの中でコンテンツが創られている。クールジャパン含めて特異な発展をしているのですが、いざ、グローバルに行こうとすると、そこが逆にハードルになっていたりする事があると思っています。お互い阿吽の呼吸でコンテンツ開発できるが故に「今これだよ」という約束事の中でコンテンツを作ってしまう事が、ある意味障害になっていると感じます。
そのように創ったコンテンツが本当にアメリカとかイギリスとかに行くと、元々の(ユーザーの)感覚が全然異なっているし、受けるベネフィットとか楽しみ方も全然違うという事が往々にしてあるんですね。その日本国内で特異に発展した能力というものや、開発手法とか、そういったものが逆に(コンテンツをグローバル展開することの)足枷になっちゃうのかなぁと思います。

沖縄にいる人たちこそ気づいてほしい


岸原孝昌様

岸原:
その点、沖縄は元々の歴史的経緯からアジアとか、中国とか、それから、良い意味でも悪い意味でも、アメリカ軍が駐留している点で、逆にアメリカ文化を取り入れている所がありますよね。アジア文化と日本文化、またさらに、元々琉球王国っていう、独自の文化をつくっていた事もあるので、いろんな多文化の視点ってすごくあるというのは感じる。
そうすると本来の沖縄の強みを生かすという面と、一方で、日本のクールジャパン的なコンテンツの素養(文化)も同じ日本人としてあるじゃないですか。クールジャパン的コンテンツをグローバル展開して行く時に、日本のコンテンツを沖縄で沖縄の技術者が世界に向けたトランスレイターとして開発したりすると、すごくいんじゃないかなぁと思っています。
そういった意味で、OADCが今回沖縄でデジタルコンテンツの発信を始めて行くというのは、すごく良いコンセプトだなぁと思っています。

「沖縄から世界へデジタルコンテンツの発信」を本気でやる


佐藤慎吾

事務局:
今、岸原さんが仰っていたコンテンツを創るという部分で言うと、佐藤さんは社団を作られて直に沖縄に触れている中で、沖縄の特異性がデジタルコンテンツの創造に活かせると感じているものでしょうか?

佐藤:
活かせると思っています。沖縄ってさっき仰って頂いた様に、アメリカの感覚もあるし、台湾とか東アジアの感覚も入っている。また、沖縄県自体が、東アジアの中心地点ということで推進している施策もある。風土文化の多様性を感じるっていう意味では、コンテンツの製作拠点としては、かなりいいと感じています。
ただ、現状は問題があるんですよね。一部ではありますが、県外からの進出企業っていうのは、どちらかというと企業内BPOみたいな位置づけで、本気でここでコンテンツを創るってのをやっていないですよね。また、県内でデジタルコンテンツを創っている企業も、内地に比べると圧倒的に数が足りないですよね。現状では、ユーザーが欲しいコンテンツを創れるかといったら、創れない、ヒット作が出せるかというと出せないのが残念ながら事実だと思います。
それで、それは何故かというと、沖縄で、デジタルコンテンツを創って成功した経験を持つ人がいないから。これからは、そういう足りない部分を埋めていく必要があると考えています。具体的には、内地のコンテンツパブリッシャーやスキルのあるディベロッパーが沖縄へ進出するメリットを感じて頂き、進出するときには沖縄の人材を雇用し、その方々へノウハウを落としていくという事に取り組んでいきます。
今、まさに設立から1年が経ちまして、その目標へのロードマップを進んでいる最中ですね。
まず、1年目で地場(沖縄)に足場を固めました。社団として、デジタルコンテンツを創造できる企業を誘致するスキームをつくりました。この取り組みを継続することが重要だと考えています。今後は、誘致した企業からはもちろん、進出に向けて働きかけている企業からも、ニーズの部分を丁寧に伺っていく事が必要ですよね。
おそらく必要とされるものは現状の行政の施策に無いパーツですよね。それを提供できるために我々がどういうメニューを創っていくのか。というのがすごく重要なところだろうなぁと思っています。
だから、なおさら来年度以降、MCF会員企業の皆さんには、OADCが考えている今後の計画を説明していき、魅力的だなぁと思ってもらえる取り組みを作り出していく事が重要であり、それには行政の前例主義によるところでない理解と支援が欠かせないなぁと考えています。

コスト軽減のメニューは必要。でも、もっと必要なものが人材


岸原孝昌様

事務局:
ここで、岸原さんにお話をお聞きしたいのですが、OADCとしては、今後より多くの企業を内地から誘致したいという思いは当然あるんですけれども、岸原さんから見てどのようなメニューが必要でしょうか。
岸原:
企業が進出する理由には、色々な理由があるとおもいますが、一番分かり易いのは、金銭的な優遇の施策とか内容とかになってくる。ビジネスだけで考えてみると売上を上げるか、コストを下げるか。単純化していくと今かかっているコストをある程度低減できる、税金だったり、インフラコストだったり、データセンター、回線料金も含めてコストが安ければ来たいというのは、非常に分かり易いメニューですよね。
ただ、それだけでやって行くと世界中に競争相手がもの凄くいっぱいいます。そこと戦わなければならないのは、しんどいと思います。
そこで、さっきの沖縄の強みみたいなものを、OADCさんとして企業に提供してあげると良いのではと思います。そうなるとコストの比較検討とか、料金がいくらとか、そういう問題じゃなくて、沖縄じゃなくちゃダメだっていう、それを提供するなら行きましょう。という事になってくれるのではないでしょうか。
一つのアイディアですが、例えばの話として人材というのはすごく大きいと思います。その中で、沖縄の人材っていうのも言わずもがなですが、アジアの人材は魅力的ですよね。でも、それって結構発掘するのが難しいですよ。アジアで高等教育を受けた人達を日本(内地)企業が直接行って採用して、社内に連れてくるのって、もう本当に大変なんですよ。文化的な差ってものすごく激しいし、それを沖縄だったらハードルが大分下がるんじゃないのかなと思っています。内地企業だったら、三段上がんなきゃいけないところが、一段ぐらい上げられればアジャストできるというか。
アジアの各地から人材を集めて、日本独自のコンテンツ開発のノウハウを付与しつつ、生まれ持ったアジアの感性もあるわけですから、それを持った人達を供給できるとなると逆に日本の何処を探してもいない。デジタルコンテンツを創造し、発信していくという中で、そういう取り組みが出来た時にはもの凄く沖縄としての強みになると思いますよ。

アジア人材の発掘、日本式スキルの付与、それが沖縄の新産業になる


岸原:
人材発掘という面でもう一つ、海外の事例を話します。アメリカの大学や企業がやろうとしている「MOOC(massive open online course、ムーク)」っていう仕組みがあるんですね、スタンフォードとか、ハーバードとかが大学の授業を全部無料で公開しているんですよ。
全世界から隠れている才能を発掘することを目的としていて、それこそ提供している授業って大学の一番高度な授業を惜しみなく提供している。もしかしたら、アフリカの12歳の子がスタンフォードの学生と同等の能力を持っているということが絶対あるかもしれないと考えているわけですよね。いちいちそこに行って探してくるよりは、オンラインで無料で提供しましょうと。そして実際に授業を受けさせてみると、何だ、すごい奴がいるじゃないかと。どうやらそうした優秀な人材をグローバル企業に紹介する事をアメリカ大学は次のビジネスにしようとしているみたいなんです。
この取り組みは、実は、大学の役割とかそういうものとか大幅に変える可能性がありますよね。
そういった取り組みを沖縄でやれれば良いと思います。将来的には、アジアの人材を育てていく拠点みたいなものにするとすごく強みになると思います。

沖縄での人材育成、OADCの役割


岸原:
特に今、日本の教育機関が行き詰ってるんです。カリキュラムが既に固まってしまっているので、産業転換とか今世の中で何が求められているかに疎いんですよね。そうすると、卒業後に企業に入社してみたら、必要なスキルが全然違うということになってしまう。例えば教育機関の高度人材を使って企業のプロトタイプ開発を無償でやったりすれば良いと思うんです。そうすれば教育機関は企業がどんな最先端ビジネスを求めているのかが分かりますしね。

左: MCF専務理事 岸原孝昌様 右:OADC代表理事 佐藤慎吾

佐藤:
最終ゴールは、学生が就職後に良い仕事ができる事なのにマーケットが見えていないということですよね。

岸原:
先日カナダ政府に招待されてバンクーバーに行ったんですが、その時に訪れたデジタル専門大学院では企業OBが先生になっているんです。素晴らしいことに企業が何を求めているかで、継続的にカリキュラムを変えているんですよ。更に1年に2回、必ず企業とプロトタイプ研究を請け負っていて、先生と大学院生が授業としてその開発を行っているんです。
 
佐藤:
それは実践的な取組みですね。日本でのテストケースとしては、ドワンゴさんがバンタンデザイン学院を買収したという話がありますよね。あれはドワンゴさんとしては優秀なクリエーターを採用したいけど、実際にはいないから一から育てるということにしたみたいなんです。だからすごく専門的なカリキュラムを組んで育成に力を注いでる。社団としても、そういう活動を沖縄でもできたら良いとは考えているんです。優秀な人材がたくさん育てば、内地から企業が進出してきて拠点をつくるかもしれない。逆に就職で内地に行ったとしても、スキルを身につけて人が沖縄に帰ってきてベンチャー企業を起こしてもらえば良い訳ですからね。そういうストーリーと成功事例が必要ですよね。

事務局:
OADCが産学の橋渡し的な役割を担っていけるかどうかで、沖縄のIT産業が大きく変わる可能性があるわけですね。

岸原:
そうですね。もともとの人材の能力は内地も沖縄も大きくは変わらないはずなんです。だからこそ環境を整備してあげることが大切なんです。時間はかかるかもしれませんが、人材は教育で大きく変わるはずですから。OADCさんで人材育成に取り組まれていけば、今後の沖縄のコンテンツ業界も大きく変わると思いますよ。

一般社団法人モバイル・コンテンツ・フォーラム(MCF)
会員数139社を束ねる日本を代表するデジタルコンテンツ業界団体。(2014/12/02時点)
公式URL:https://www.mcf.or.jp/